Seeds of the art

【Seeds of the art Vol.7】オラファー・エリアソン「ときに川は橋となる」展を観て-「あなたの内側にあるものを架け橋とする大切さ。」

ある日SNSを見ていたら、一枚の写真に心ときめきました。。
ハッとするほど印象的な空間インスタレーション。それはアーティスト、オラファー・エリアソンの作品でした。

「太陽の中⼼への探査」

オラファーはデンマーク出身のアーティストで100名を超える他ジャンルなスペシャリストで構成されるスタジオ・オラファー・エリアソンを設立し、光や水、霧などの自然現象を新しい知覚体験として屋内外に再現する作品を数多く手がけ、世界的に高く評価されている現代アーティストです。

今回は予想以上に多くのアートラバーで混雑し、入場まで50分待ちという注目度の高さでしたが混雑の中でも集中して一つ一つの作品と会話するように観ることができました。オラファーとスタジオメンバーとの共同創造である作品の数々は、全ての作品がとても丁寧に創作のコンセプトやインスピレーションと向き合いながら、それを作品に純粋に結晶化していくために静かで熱い情熱を注いだことを感じさせる作品ばかりでした。オラファーはじめ、スタジオのメンバー皆がARTという枠を広げてこの世界の研究者であり表現者であることの素晴らしさに感動しました。

冒頭でお伝えした、私がときめいた一枚は「太陽の中心への探査・The exploration of the sun 2017」という作品でした。暗い空間に浮かぶ美しい幾何学立体の中から放たれる光を観ていると、誰もが心の中に内在する宇宙を表に引き出されるような心持ちになります。太陽という存在を幾何学化することで、無駄なものを削ぎ落とし、シンプルかつ強烈なインパクトを与えてくれました。そして何より作品空間そのものが観る者へ根源的な音を聴かせてくれるようにも感じて、それは今も言語化できずに私の心にしっかりと響いたままです。

他にも作品は大小様々でしたが、感じるところは共通点が多く、全てが作品を見た時にまるで自分の内側へとナビゲートされるような感覚になれる不思議な印象でした。それは言い換えれば魔法のような感覚ですが、展示会中で彼の魔法使いとしての根拠を明かしてくれる作品の数々にも出会えました。

今回の展示では「サスティナビリティの研究室」と題したアトリエも発表されていて、そこにはぎっしりと幾何学模型や土やガラスや繊維など、様々な素材がサンプリングされていたり自然界をアートな視点でどっぷりと研究した軌跡が窺える、かなり見応えのあるワクワクする秘密のラボ感たっぷりの研究室でした。このように創作結果としての作品だけではなく、作品が生まれる背景やプロセスをシェアしてくれるアーティストは少ないので貴重な研究室を覗けて嬉しくなり、すごく共感も深まりました。

↑「サスティナビリティの研究室」

芸術作品は、インスピレーションや創作のきっかけだけでは完成せず、そのイメージやビジョンを持続して結晶化するために、高い技術と情熱、制作過程でのトライ&エラーに負けずに創り上げる忍耐力や、逆境の中でも自分の魂の声に従う素直さなど多くの条件をクリアして初めて強く美しくこの世に生まれてきます。スタジオ・オラファー・エリアソンの作品はコンセプトだけに終わらせずに、的確に美しく具現化しているところが凄かったです。他ジャンルのスペシャリストの知恵や体験を集めている分、総合力の高さを感じる作品ばかりでした。。その点においても、一人で創作するのではなくスタジオの100人以上のメンバーと知恵や技術をシェアしながら創る彼の創作スタイルは「共同創造」という新しい時代の象徴的な創作概念にぴったりだなぁと感心しました。

また、「アートを通してサスティナブルな生(ライフ)を再考するために。」とオラファーの言葉にもあるように、アート作品を通して現在の地球の環境問題へとアプローチしたり、問題解決の糸口や閃き、行動を生み出すようなメッセージ性の高い作品も多かったです。アートをフィルターにすると今までと全く違う角度からのアプローチで環境問題を捉えることができるのです。オラファーエリアソンは「アートこそが社会の中の活性成分となる」と主張していますが、実際に作品を体験すると深く頷けるところでした。

↑写真左「あなたの移ろう氷河の形態学」、右「溶ける氷河のシリーズ」

個人的には、解けゆく氷河の氷とコラボレーションした大きな絵にとても感動しました。紙の上で溶けていく氷の水が顔料と混ざり合うことで豊かな濃淡や滲みが生まれ、人間には為せない、大自然の緩やかでおおらかな波のような色彩がゆっくりと自分と融合するような不思議な感覚的な絵画でした。

オラファーは、デンマークのコペンハーゲンという大都会とアイスランドの氷河や大自然を行き来した生い立ちがあります。氷河を作品に取り上げるとはなんて壮大な!と思いましたが彼にとっては身近な存在だったのかもしれません。私にとっても伊豆大島と東京、大自然と大都会を行ったり来たりすることは、互いにあるものと無い物のバランスと調和を繋ぐポイントを毎回見せてくれることが醍醐味です。アーティストにとって二つの極端な世界の往来は、新しい発見とインスピレーションをもたらしてくれるのかもしれません。

↑写真左「リトルサン」右下「リトルサン・ダイアモンド」

他にも「リトルサン」という太陽光発電のエコロジカルなライトを商品化したり、日本までの作品搬入にも二酸化炭素を多く排出する航空機ではなく船と鉄道を使って、その移動中の振動で絵を描き作品にしてしまったり、街中にタイヤを鏡にすり変えた自転車を置いて道ゆく人をハッとさせたり。。。中々遊び心とユーモアのあるエコロジーへのアプローチが素敵です。

オラファーは未来を再設計するために、これまでやって来た「過去に基づいて現在を構築することから「未来が求めるものに従って現在を形づくるものに変えるべきだ。」』と語っています。この逆転の発想から生まれてくる作品だからこそ、私たちは心の奥で何か大切なものに気づかされ、心から感動するのでしょう。

オラファーは作品の中で、流れる水から虹を創り出したり、影に色をつけたり、川が橋になったりと囚われのない子供のように自由な想像力と閃きから創作のきっかけを見出しています。彼は日常の中に隠れていたり、人が見過ごしてしまう小さな奇跡や神秘のかけらを丁寧に掘り起こして紡ぎ、それを作品に昇華させてゆきます。作品を観る人々は、それを印象的な種として心の中で意識し、いつかその人の心の中で芽吹き、開花して実って行くというプロセスを楽しめるのです。

↑写真左上「⼈間を超えたレゾネーター」、中上「beauty」、右上「おそれてる?」、中下「ときに川は橋となる」

展示会の題名ともなった「ときに川は橋となる」についてオラファーは以下のように語ります。

『「川」は過去の多くの詩に出てくるように、現実や命、時間を象徴するものです。一方で、「橋」は内面に対する外部。外側を見ること、外側に通じるものです。つまり「川が橋になる」とは、このようなことを示唆しているのです。
何か答えを探すときには、外側を見るだけではなく、もっと自分自身の内面、人生を省みなければならない。私たちはもっと自分自身の内側を見つめるべきだ。人生には深い意味がある。』

このように彼の作品や言葉からも分かるように、彼は自分自身の内側をとても大切にしています。作品を観た時に、自分はどう感じるのか、自分の心や内面で、一体どのように感じているのか?それはどうしてなのか?そんな風に、作品という外側の世界からの問いかけに自分自身の内側で素直に応じることで、感覚的に直接作品から受け取ったメッセージという種を育むことができます。

答えは急がなくても、いつか芽吹き、実っていきます。
古今東西、どこを探さなくても宝や答えは自分自身の内側にあると言います。その内側はきっと皆、繋がりあっていることでしょう。その見えない繋がりを再確認するためにも、自分自身の内側から世界に少しずつでも橋を架けていく大切さを、今回の展示会では学べました。オラファーは私の心に作品を通して、自分自身の内側にある未知の可能性という虹の架け橋をかけてくれました。私にとって彼はアーティストという名の魔法使いであり、その根拠も明らかにしてくれている点にも大きくリスペクトでした。

今まで全く知らなかったアーティストでしたが、今後はスタジオ・オラファー・エリアソンの作品から目が離せなくなりました。アーティストが得たり体験した閃きや理解、才能そのものを、作品という形で世界にシェアしてくれるということに心から感謝できた展示会となり、忙しい中でもすごい勢いで(笑)行ってよかったなぁと実感もできました。

SNSからキャッチした一枚の写真から実際に行ってみることで得た空間体験はとても価値のある素晴らしいものとなりました。皆様にも、是非SNSで満足せずに、気になったり心惹かれる対象には、少し無理したり背伸びしてでも実際に体験することをお勧めします。その先には予想外の感動が必ずあるはずです。もちろん、アートの種は日常にも気づけば沢山ありますので、いつもと違う視点やアプローチで再認識してみて楽しんでくださいね。

↑書籍より

▼オラファー・エリアソンの動画

オラファー・エリアソン ときに川は橋となる
【講演会】オラファー・エリアソン:アートをエコロジーの視点で見直すこと
《カラー・アクティヴィティ・ハウス》|金沢21世紀美術館コレクション作品
映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』公式予告編
Olafur Eliasson x Yuko Hasegawa (Staying TOKYO Vol.3)
The weather project (ウェーザー・プロジェクト)》2003。ヘルツォーク&ド・ムーロンによってリノベーションされた〈Tate Modern(テート・モダン)〉のタービン・ホールに、人工の太陽をつくり出すインスタレーション

▼オラファー・エリアソン リンク

Instagram : @studioolafureliasson

オラファー・エリアソン ときに川は橋となる@東京都現代美術館

1977年生まれ 山形出身。日本大学芸術学部 絵画科卒業。 オリジナルの宇宙観や、大自然から受け取ったインスピレーションを源に絵画作品を制作。 また日本の伝統文化である「茶道」を独創的な発想で表現しインスタレーション作品として屋内外で展示開催。 2002年 韓国ソウルに留学。 2003年 沖縄へ移住。 2008年 結婚後、東京に移住。 2011年 伊豆大島に移住。四人の子共を出産し育児のためしばらく活動休止。 2016年 NYにてグループ展に参加するなど、創作活動を少しずつ再開し現在に至る。 https://sofukulee.wixsite.com/website